細辛(さいしん)
基原
ウマノスズクサ科AristlochiaceaeのケイリンサイシンAsiasarum heterotropoides F.Maekawa var. mandshuricum F. MaekawaまたはウスバサイシンAsiasarum sieboldi F.Maekawaの根をつけた全草。日本薬局方では根および根茎を規定している
性味
辛、温
帰経
肺・腎
効能・効果
①散寒解表
②温肺化飲
③祛風止痛
主な漢方薬
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
独活寄生湯(どっかつきせいとう)
立効散(りっこうさん)
苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
特徴
ウスバサイシンは山地の日陰に生える多年草で、中国大陸中南部、朝鮮半島および日本に分布しています。
ウスバサイシンはゆっくり成長する植物です。種子を蒔いた年には根が伸びるだけで翌年の春にやっと双葉が出ます。2年目の春にやっと双葉が出て、3年目に生長のよいものは本葉が二枚になり、花もつけるそうです。その後は年々芽の数が増えていき、5年目に成分含有量が日本薬局方の規定に適合する量が採れます。この間、遮光をして育てるので手間がかかります。
日本薬局方では細辛としてウスバサイシンのほかに、中国に生育するケイリンサイシンも収載されています。ケイリンサイシンはオクエゾサイシンの変種です。ウスバサイシンより大型で、葉の裏にはかなりの毛があります。葉には腎障害を起こすアリストロキア酸が含まれているので、生薬としては使えません。
日本薬局方では「根および根茎」を規定していますが、中国では「全草」が規定されています。もともとは根のみを使用していましたが、近年になって細辛の資源減少に伴い、全草が用いられるようになりました。
根が極めて細く、外部淡褐色内部白色で、「山椒」のように辛みが強く舌を麻痺させるように烈しいもので、新しいものが良品とされています。年を経て辛味の抜けたものは劣るとされています。この辛味は細辛の名前の由来にもなっています。
「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の上品に収載されていますが、古来より作用の激しい薬物として使用量に注意がうながされており、「細辛は一銭(3g)を過ぎるべからず」と記載されています。
辛温の薬で温め風寒の邪を体表から発散させる辛温解表薬(しんおんげひょうやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、蘇葉(そよう)、荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、羌活(きょうかつ)、辛夷(しんい)、生姜(しょうきょう)などがあります。
風寒表証の発熱・悪寒・頭痛・身体痛・鼻閉などに用いられます。代表的な漢方薬に、麻黄などと一緒に配合された麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)があります。
寒飲による咳嗽・呼吸困難・希薄な痰などの症状に用いられます。乾姜(かんきょう)や半夏(はんげ)などと一緒に配合された小青竜湯(しょうせいりゅうとう)があります。
風寒の頭痛には川芎(せんきゅう)や白芷(びゃくし)と一緒に配合された清上蠲痛湯(せいじょうけんつうとう)があります。
風冷の歯痛にも、烏頭(うず)・乳香(にゅうこう)・白芷などと粉末にして疼痛部にすりこみます。風寒湿痺の関節痛には、防風や独活(どっかつ)と一緒に配合された独活寄生湯(どっかつきせいとう)が用いられます。
細辛は散寒の効力は強いですが、発汗力は弱いので解表剤には主薬としては用いられません。散寒・化飲・止痛などの効能を利用し、陽虚飲寒・寒飲の表証あるいは疼痛が強い表証に使用します。また、強い止痛の効能を目的に、寒熱のいずれであっても配合して用います。
蜜炙(炙細辛)すると、温散の性質が減弱し、化飲止咳の効能が主体になります。
辛散の性質が強く正気を損耗する恐れがあるので、気虚の多汗・陰虚火旺・血虚内熱・乾咳無痰などには禁忌です。
生薬の配合で混ぜると毒性が強く出やすい組み合わせを「十八反(じゅうはっぱん)」と言います。細辛もこの中に含まれており、配合禁忌とされている生薬は藜芦(りろ)です。藜芦は細辛以外にも人参(にんじん)、丹参(たんじん)、西洋参(せいようじん)、玄参(げんじん)、苦参(くじん)、沙参(しゃじん)、赤芍(せきしゃく)、白芍(びゃくしゃく)とも相反します。
ウスバサイシンは春の妖精と言われているギフチョウやヒメギフチョウの食草であることでも知られています。ギフチョウは本州中部から中国地方に分布し、日本海側は東北地方中部まで見られますが、太平洋側は神奈川県北部辺りまで見られます。ヒメギフチョウはギフチョウよりやや小柄で寒冷な気候を好み、北海道や東北地方、甲信地方に分布し、関東地方では群馬県で見られます。ギフチョウは各種のカンアオイを、ヒメギフチョウはウスバサイシンだけを食べますが、これらの食草の生育地が減ったことにより、ギフチョウは絶滅危惧II類、ヒメギフチョウは準絶滅危惧に指定されています。
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