竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
組成
竜胆(りゅうたん)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)・車前子(しゃぜんし)・沢瀉(たくしゃ)・木通(もくつう)・生地黄(しょうじおう)・当帰(とうき)・甘草(かんぞう)
効果
比較的体力があり、下腹部筋肉が緊張する傾向があるものの次の諸症:
排尿痛、残尿感、尿の濁り、こしけ
効能
清瀉肝胆実火・清泄下焦湿熱
主治
肝胆実火:
いらいら・怒りっぽい・はげしい持続性の頭痛・めまい感・目の充血・眼痛・耳鳴・耳痛・突発性難聴・口が苦い・胸脇痛など
下焦湿熱:
排尿痛・排尿困難・尿の混濁・残尿感・陰部の瘙痒・腫脹・発汗・悪臭のある黄色帯下・インポテンツなど
方意
肝経の実火と湿熱を瀉す目的で作られた方剤です。下焦の諸炎症で、充血・腫脹・疼痛を伴う場合に用いられます。
診断のポイントは、下焦の湿熱・下腹の緊満・小便混濁・肝火上炎・脇痛・口苦・目の充血・腹直筋の緊張と外側の緊張過敏などです。
肝臓の解毒機能障害(肝胆の湿熱という)を原因とする梅毒や淋病、膀胱炎や尿道炎などの尿路系炎症疾患を改善するとともに自律神経の過剰興奮(イライラ・ヒステリー)などの鎮静作用も有しています。肝のクールダウン処方とも言えるもので、炎症性の有無は尿や汗、おりものなどの色が濃くなっていることで判断をつけるとよいです。
大苦大寒の竜胆が主薬で、上は肝胆実火を清瀉し下は湿熱を清泄します。苦寒の黄芩・山梔子は瀉火・清熱するとともに三焦を通利して、竜胆を補助します。清熱利湿の沢瀉・木通・車前子は湿熱を小便として排除し、また上部の火熱を下泄します。甘草は清熱と調和諸薬に働きます。肝経の火熱は陰血を消耗しやすく、苦寒燥湿薬も傷陰しやすいので、滋陰養血の生地黄・当帰を配合して、陰血に損傷が及ばないように防止しています。
苦寒の生薬が多く脾胃を損傷しやすいので、効果があればすぐに中止し、多量の服用や長期の服用は避けましょう。脾胃虚寒には禁忌です。
竜胆瀉肝湯の原作者については諸説があり原典は確定しておらず、諸家により処方内容が少しずつ異なります。こちらで記載した組成は「薜氏十六種(へきしじゅうろくしゅ)」に掲載されている竜胆瀉肝湯です。「医方集解(いほうしゅうかい)」の竜胆瀉肝湯は、薜氏十六種の竜胆瀉肝湯に柴胡(さいこ)が加えられています。柴胡は肝気を上昇させるので薜氏十六種では除かれていますが、肝の疏泄をはかるという竜胆瀉肝湯の方意を考えると加えた方が良いように思えます。他にも有名な処方に、一貫堂(いっかんどう)の竜胆瀉肝湯があります。
一貫堂の竜胆瀉肝湯の基本構造は、清熱解毒作用の黄連解毒湯(黄連(おうれん)・黄柏(おうばく)・黄芩・山梔子)+四物湯(当帰・川芎(せんきゅう)・白芍(びゃくしゃく)・熟地黄)です。そこに風邪を解毒する薄荷(はっか)・連翹(れんぎょう)・浜防風(はまぼうふう)を加えて黄連解毒湯の作用を補強します。清熱と利水作用の竜胆・沢瀉・木通・車前子を組み合わせて消炎作用と水分代謝の異常を改善し、湿邪を取り除くようにしています。一貫堂医学においては、「解毒証体質」の体質改善薬として位置づけられ、特に壮年期の方に用いられました。「解毒証体質」は「鼻炎や気管支炎、リンパ節腫脹などの炎症を起こしやすく、結核にかかりやすい」体質とされ、現代ではアレルギー体質に当てはまると考えられています。このような体質の方は体内に湿熱を常に持っていることが多く、下半身の湿疹やイライラ、不眠などの精神神経症状にも効果的と考えられます。
薜氏と一貫堂の竜胆瀉肝湯を比較すると、薜氏の竜胆瀉肝湯は薬味が少ないため、効き目がシャープで短期的に使用するのに適しています。一方、一貫堂の竜胆瀉肝湯は薬味が多く、温清飲(うんせいいん)の構成生薬が全て揃うのが特徴で、慢性・反復性の炎症を伴う場合に適しています。竜胆瀉肝湯のエキス剤はこの2種類のどちらかが採用されている場合が多いので、使用する場合は生薬の配合を確認しましょう。
類方鑑別
猪苓湯(ちょれいとう):
泌尿器症状は竜胆瀉肝湯によく似ていますが、生殖器症状を伴うことがなく、体力中等度の場合に用います。
五淋散(ごりんさん):
体力中等度の方で、やや体質が虚弱で、冷え性の傾向があり、症状が慢性に経過する場合に用います。
清心蓮子飲(せいしんれんしいん):
比較的体力の低下した方で、胃腸虚弱・冷え性・神経過敏の傾向がある場合に用います。
八味地黄丸(はちみじおうがん):
口渇・軽度の排尿痛のほか、全身倦怠感・足腰の冷えや痛みを訴え、下腹部が上腹部に比べて緊張が弱い場合に用います。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):
尿量減少・浮腫が一層顕著で全身倦怠感・腰部の冷えや痛みもやや強く訴える場合に用います。
参考文献
編著者: 神戸中医学研究会 / [新装版]中医臨床のための方剤学 / 東洋学術出版社 (2012)
編著者: 髙山宏世 / 腹証図解 漢方常用処方解説 / 日本漢方振興会 (1988)
著者: 杉山卓也 / 現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 / 日経印刷 株式会社 (2018)
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