知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
組成
熟地黄(じゅくじおう)・山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)・沢瀉(たくしゃ)・茯苓(ぶくりょう)・牡丹皮(ぼたんぴ)・知母(ちも)・黄柏(おうばく)
効果
体力中等度以下で、疲れやすく胃腸障害がなく、口渇があるものの次の諸症:
顔や四肢のほてり、排尿困難、頻尿、むくみ
効能
滋陰降火
主治
陰虚火旺による骨蒸潮熱・煩躁・遺精など
方意
知柏地黄丸は陰虚火旺の代表方剤です。六味地黄丸(ろくみじおうがん)に苦寒瀉火の知母・黄柏を加えた処方で、知母の潤性と黄柏の燥性が相殺して瀉火の効能のみが得られ、六味地黄丸より瀉相火の効能がつよめられています。
中高年になり、身体のだるさ、腰痛、下半身の衰え、顔や手足のほてり、口渇、排尿困難、頻尿などの症状がある場合に用いられます。若い方でも、過労で体力・気力を過度に消耗した場合にも適しています。
六味地黄丸は熟地黄・山茱萸・山薬の補腎益精薬で腎精不足を補い、牡丹皮・沢瀉で腎陰虚の虚熱を冷まし、沢瀉・茯苓で補腎益薬による水分の偏りを調節して腎精不足と陰虚火旺の状態に用いられます。さらに、滋腎潤燥・清熱の知母と、清熱化湿の黄柏が加わることで、陰虚火旺の虚熱を冷ます作用を強めています。
全体として補を主としながらも補瀉兼施しており、使いやすい方剤です。体質を強化して持病・免疫能を高め、内分泌および自律神経の機能を調整する働きが期待できます。応用範囲が広く、腎精不足と陰虚火旺による各種慢性疾患に用いることができます。女性の更年期障害にも用いられますが、男性更年期の熱感や不安感にも適しています。また、糖尿病による口渇、多尿、頻尿や、耳鼻咽喉科疾患では、慢性中耳炎や耳鳴り、口内炎や慢性扁桃炎などにも応用されます。
原典は「医方考(いほうこう)」で、「六味地黄丸加黄柏知母方」という名前で掲載されています。清代・呉謙の「医宗金鑑(いそうきんかん)」が知柏地黄丸の名称を使った影響もあり、現在は知柏地黄丸の名前が定着しました。
類方鑑別
杞菊地黄丸(こぎくじおうがん):
六味地黄丸に明目作用の枸杞子(くこし)・菊花(きくか)を加えた処方です。疲れ目・かすみ目・目の充血などの症状に用います。
味麦地黄丸(みばくじおうがん):
六味地黄丸に肺を潤し、咳を止める五味子(ごみし)・麦門冬(ばくもんどう)を加えた処方です。空咳や息切れなどの症状に用います。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):
八味地黄丸(はちみじおうがん)にむくみ、しびれをとる牛膝(ごしつ)・車前子(しゃぜんし)を加えた処方です。冷えやすい方の下肢痛、腰痛、しびれなどの症状に用います。
参考文献
編著者: 神戸中医学研究会 / [新装版]中医臨床のための方剤学 / 東洋学術出版社 (2012)
編著者: 髙山宏世 / 腹証図解 漢方常用処方解説 / 日本漢方振興会 (1988)
著者: 杉山卓也 / 現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 / 日経印刷 株式会社 (2018)
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