杏仁(きょうにん)

杏仁

基原

バラ科RosaceaeのホンアンズPrunus armeniaca L.,アンズPrunus armeniaca Linné var. ansu Maxim.などの種子

性味

苦・辛、温、小毒

帰経

肺・大腸

効能・効果

①止咳平喘
②潤腸通便

主な漢方薬

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
五虎湯(ごことう)
麻黄湯(まおうとう)
苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
清肺湯(せいはいとう)
麻子仁丸(ましにんがん)
潤腸湯(じゅんちょうとう)

特徴

アンズは中国北部に分布する落葉小高木で、世界各地で果樹として栽培されます。日本には中国から渡来したと言われており、現在でも産地として長野県の「あんずの里」が有名です。3月下旬から4月中旬は一面がピンクの花で埋まり、アンズ祭りが開かれます。

アンズの呼び方は中国の「杏子」からきており、日本では昔は「カラモモ」と呼ばれていました。いつ頃渡来したのか詳しいことはわかっていませんが、カラモモの名は「古今和歌集(こきんわかしゅう)」に初めて登場し、この頃にはかなり栽培されていたようです。

杏仁は、字が示すように「杏(アンズ)」の仁(種子)です。「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」には下品として「杏核仁」の名で収載されています。古くからバラ科植物の種子は生薬や食用に利用されており、アンズの仁である杏仁以外にも、モモの仁である桃仁(とうにん)や、ウメの仁である梅仁(ばいにん)があります。バラ科植物の仁の区別は非常に難しく、1681年に出版された遠藤元理の「本草弁疑(ほんぞうべんぎ)」では「桃仁は見分けやすいが、杏仁と梅仁はよく似ているため、杏仁と梅仁が混じって売られていることがある」と記されています。杏仁に小粒のものが混ざっている事があれば、これは梅仁である可能性が高いです。現実の生薬市場では、「本草辨疑」で見分けやすいとされている桃仁にも杏仁が混入していることがあります。杏仁は主に咳止め薬として用いられる一方、桃仁には駆於血作用(血のめぐりをよくする作用)があり、効能は全く異なるため注意が必要です。

杏仁には苦みの強い苦杏仁(くきょうにん)と、苦味がなく甘みのある甜杏仁(てんきょうにん)があります。苦杏仁は主に生薬として用いられ、甜杏仁は食用として杏仁豆腐などに用いられています。青酸配糖体アミグダリンの含量が前者では約3.0%、後者では約0.1%と差がありますが、両者に植物形態的な違いはありません。このアミダグリンが有毒であるため、古くから「毒のある薬味」とされており、多量に用いてはならず、分量は慎重に決める必要がありました。

漢方薬の薬味として使うときには「きょうにん」、菓子などに使うときには「あんにん」と発音されることが多いです。「あんにん」は上海地方の発音であり、日本で明治時代以後中国料理がさかんになったことにより広まったと言われています。

薬膳料理の杏仁豆腐は杏仁を粉末にした杏仁霜(きょうにんそう)の苦味を消すために甘くして食べやすくしたものです。もともとは喘息の治療のために開発された薬膳料理ですが、その美味しさが評判となり、清代には宮廷料理の最高峰「満漢全席」のデザートとして、皇帝や妃たちにも食されていました。日本でも本格的な杏仁豆腐には杏仁霜や甜杏仁が使われていますが、多くは牛乳寒天にフルーツを混ぜ込み、アーモンドエッセンスやバニラエッセンスで香り付けしたものを杏仁豆腐と呼んでいます。ちなみに杏仁豆腐のトッピングで使われる赤い実は枸杞子(くこし)という生薬です。

『神仙伝』中の名医・董奉(とうほう)の故事から、「杏林(きょうりん)」という言葉があります。三国志時代の名医・董奉は貧しい人を治療しても治療代を受け取らず、代わりにアンズの木を植えさせました。数年後には立派なアンズの林になり、たくさんの実が得られるようになりました。董奉は、「もしアンズがほしい人がいたら、私にことわる必要はありません。一缶分の穀物を私の倉庫に置いていけば、同じ量のアンズをもっていって結構です」という看板をアンズの林に設置し、得られた穀物をすべて貧しい人や旅人に提供したのです。この伝説から「杏林」という言葉が良医の代名詞とされ、現在でも医科大学や製薬会社など、医療に関わる分野で「杏林」にちなんだ名前が用いられています。

上端は尖り、尾端は丸く、やや偏平でよく肥厚して大粒で、内部が白く、虫害が無く、脂肪油が外面に浸出していない品が良品とされています。虫食いがあるものは劣品とされ、古くなった脂肪油が変敗し腐敗臭を発するものは薬用として使用できません。食用に大型化された品種の種子は未熟なものが多く、こちらも薬用には不向きです。

咳を止める止咳平喘薬(しがいへいぜんやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に桔梗(ききょう)款冬花(かんとうか)、白前(びゃくぜん)、旋覆花(せんぷくか)、桑白皮(そうはくひ)、枇杷葉(びわよう)、蘇子(そし)があります。

咳を鎮める効果があり、咳・喘息の処方に欠かせないため「喘息の要薬」と呼ばれています。代表的な漢方薬に麻黄(まおう)や石膏(せっこう)と一緒に配合された麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)や五虎湯(ごことう)があります。

潤い不足による便秘にも用いられ、代表的な漢方薬に麻子仁(ましにん)と一緒に配合された麻子仁丸(ましにんがん)や潤腸湯(じゅんちょうとう)があります。

肺の気を巡らせることで、水分代謝を改善し、むくみにも効果があります。

潤い不足による乾いた咳や、泥状~水様便には不向きです。

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