蜀椒(しょくしょう)・山椒(さんしょう)
基原
ミカン科RutaceaeのカホクザンショウZanthoxylum bungeanum Maxim.、イヌザンショウZanthoxylum schinifolium Sieb. et Zucc.などの成熟した果実の果皮。日本産はサンショウZanthoxylum piperitum DC.に由来する
性味
辛、熱。小毒
帰経
脾・胃・腎
効能・効果
①散寒止痛
②解毒駆虫
主な漢方薬
大建中湯(だいけんちゅうとう)
当帰湯(とうきとう)
解急蜀椒湯(かいきゅうしょくしょうとう)
烏梅丸(うばいがん)
特徴
サンショウは平地や低山の明るい林、林縁に生える落葉低木です。原産地は日本列島や朝鮮半島といわれています。鮮やかな赤い実をつけ、庭木としても植えられています。枝には刺が対生し、葉は奇数羽状複葉です。春に葉の展開に少し遅れて黄緑色の小さな花を付けます。香辛料としてよく知られていますが、漢方では芳香性辛味健胃薬として利用されています。
サンショウの別名は「ハジカミ」と言い、一般には「はじかみら」の略であると言われています。「ハジ」は「はぜる実」、「カミラ」はニラの古名で味が似ていることに由来しているとされますが、そのほかにも「味が辛渋くて歯がしかむ(蹙)から」また「ハシアカミ(端赤実)」や「ハシタカラミ(歯舌辛)」など諸説があります。
江戸中期に書かれた「和漢三才図絵」に山椒について「その実は風邪を除き、身体を温め、歯や髪を丈夫にし、久しく服用すれば目を明るくし、顔色を良くする」と記載されています。
日本薬局方に山椒は苦味チンキ剤原料のショウズクの代用品として第5局から収載され、サンショウの成熟果皮が規定されています。一方、中華人民共和国葯典には「花椒」の名称で、青椒(イヌザンショウ)と花椒(カホクザンショウ)の果皮が規定されており、同類生薬ですが日本と中国で名称と原植物が異なります。これは、日本には蜀椒の基原植物であるカホクザンショウがなかったために、江戸時代に代用としてサンショウが用いられたことがきっかけとなっています。使用してみた結果、サンショウのほうが効果的に優れているとして、現在も日本ではサンショウが用いられています。花椒は痺れるような辛さを持つ香辛料として麻婆豆腐や坦坦麺などに使われており、一般的に山椒よりも辛味は強いと言われています。それぞれの薬効は程度の差はありますが、効能はほぼ同じと考えられています。
サンショウとイヌザンショウは同じような場所に生えますが、山椒の若葉はとても良い香りがするのに対し、イヌザンショウは匂いが悪く、刺が1箇所から1本しか出ないので区別することができます。イヌザンショウは悪臭があることから、本物のサンショウに比べて役に立たないという意味で「イヌ」を付けられたと言われています。
古くはその特徴的な香りが邪気を祓い、たわわにつく実が子孫繁栄につながると信じられるなど、吉祥の象徴であったようです。お正月に無病長寿を願って飲まれる屠蘇散(とそさん)にも配合されています。
歯痛のときにサンショウを噛んだり、虫歯の穴にサンショウをつめて痛みを止めるといった民間療法があります。
果皮の中にある黒い種は「椒目(しょうもく)」とよばれ、サンショウの熱の性質に反し、冷ます作用の強い寒の性質を持ちます。水をめぐらせ、余分な水を排出する働きがあります。
蜀椒は「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の下品に分類されており、古くから薬用として利用されていました。
種子や果柄が少なく、新しくて香気および辛味の強いものが良品とされています。
体内に入った寒邪を散らす散寒薬(さんかんやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に附子(ぶし)、烏頭(うず)、肉桂(にっけい)、乾姜(かんきょう)、茴香(ういきょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、艾葉(がいよう)があります。
中寒による激しい腹痛・冷え・嘔吐・摂食不能などの症状に用いられます。代表的な漢方薬に、乾姜や人参(にんじん)と一緒に配合された大建中湯(だいけんちゅうとう)があります。陽虚の慢性的な腹痛・水様便には、附子や乾姜などと一緒に用いられます。寒湿による腹痛・冷え・水様下痢などの症状には、蒼朮(そうじゅつ)や陳皮(ちんぴ)、厚朴(こうぼく)などと一緒に用いられます。
回虫など腸内寄生虫による腹痛・嘔吐などに用いられます。代表的な漢方薬に、烏梅(うばい)と一緒に配合された烏梅丸(うばいがん)があります。湿疹の痒みに、苦参(くじん)や地膚子(じふし)などと一緒に外用します。
益火止喘の効能があるので、腎虚の腰痛・痰喘・足の冷えなどに用いられます。
陰虚火旺には禁忌です。
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