遠志(おんじ)
基原
ヒメハギ科 Polygalaceaeのイトヒメハギ Polygala tenuifolia Will.の根または根皮
性味
苦・辛、温
帰経
心・腎・肺
効能・効果
①安神益智・豁痰開竅
②散鬱化痰
主な漢方薬
帰脾湯(きひとう)
加味帰脾湯(かみきひとう)
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
特徴
遠志はイトヒメハギの根を乾燥させて作られます。生薬として使うときには、根の木質部を取り除いた「心抜き遠志」や「遠志肉」または「遠志筒」と呼ばれるものが良質とされています。太くて長く、ごつごつしたものが良いとされ、細いものや堅いものはあまり良くありません。
遠志と同じ同属の植物で、効能のよく似たものにセネガというものがあります。実は日本薬局方(日本で使われる医薬品の規格基準書)には、遠志よりも先にセネガが収載されていました。セネガは北アメリカ原産の植物で、先住民族のセネガ族がガラガラヘビに噛まれたときの応急処置に使われていました。(セネガに解毒の効能はあまり期待できないので、現在では迷信だったと考えられています)その後、痰をとる作用が認められ、ヨーロッパを中心に広く用いられるようになりました。ヨーロッパで効能が認められていたことから、日本薬局方の初版(1886年)にセネガが先に収載され、その後第4版(1920 年)にセネガの代用品として遠志が収載されました。セネガは中国では美遠志と呼ばれています。
遠志の名前の由来である「遠くを志す」とは、志を強くし智を益するという意味です。近年では遠志の健忘改善効果を期待して、物忘れ予防のサプリメントが販売されています。
心神不安を治療する養心安神薬(ようしんあんじんやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に酸棗仁(さんそうにん)、柏子仁(はくしにん)、夜交藤(やこうとう)、小麦(しょうばく)、合歓皮(ごうかんひ)などがあります。
遠志には精神を安定させる働きがあります。特に心腎不交(心火と腎水がうまく交わらずバランスを崩した状態)による不眠・動悸・健忘に用いられます。代表的な漢方薬は人参や茯苓(ぶくりょう)と一緒に配合されている帰脾湯(きひとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)です。
成分としてサポニンを含み、咳を鎮め、痰を取り去る効果があります。同じくサポニンを含んで祛痰作用のある植物に桔梗(ききょう)があります。
その他にも利尿作用や抗浮腫作用があり、腫れ物や乳房の腫痛に用いられます。
遠志は糖尿病の検査値である1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(血中1,5-AG)を含んでいます。そのため、血中1,5-AG測定値に影響を及ぼすことが報告されています。糖尿病の検査をするときに遠志を含む漢方薬を服用している場合、医師に報告する必要があります。
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