【漢方相談】60代・女性　耳鳴り

桃華堂からのコメント

この方は飛行機に乗ったことをきっかけに耳鳴りが悪化し、日中もずっと音が鳴っている状態でした。病院での治療を続けていましたが改善せず、当店にご相談いただきました。また、朝方になると腹痛と下痢を起こしていました。

舌を拝見したところ、その表面には舌苔（舌の表面に付着する苔状のもの）とひび割れが見られました。また舌の色は暗く、血流が悪い状態でした。これらの状態から、水分代謝の悪さが耳鳴りの原因と考えられたため、水分代謝を改善する五苓散（ごれいさん）と、下痢を改善する人参湯（にんじんとう）を処方しました。また、耳鳴りの改善効果のある滋腎通耳湯（じじんつうじとう）も合わせて処方しました。

2週間の服用で耳鳴りの音がやや小さくなり、下痢の回数も軽減しました。舌を見るとまだ苔があり、内臓の冷えが見られたので、人参湯を小建中湯（しょうけんちゅうとう）に変えてお渡ししました。その後はお腹の調子もよくなり、耳鳴りも気にならない程度まで小さくなったため、約2ヶ月間の服用で漢方治療を終了しています。

舌の上の分厚い苔は、胃腸の弱りから水分代謝が悪化して水分過多になっている証です。一方で、舌表面のひび割れは水分不足による乾燥を示しており、この方は一見すると矛盾した2つの証を持っていました。これは体内の水分が偏在していることを表しており、身体の一部分には水分がたくさんある一方で、別の部分では水分が足りていないという状態です。五苓散は水を余っている部位から足りない部位に運ぶ性質があり、水の偏りを改善するのに適した漢方薬です。この方の場合、始めの2週間で速やかに効果が出たのは五苓散の効能によるものであり、続けて胃腸を整えることで水分代謝が悪くなる原因を根本から取り除くことができました。