水菖蒲(すいしょうぶ)・菖蒲根(しょうぶこん)

基原

サトイモ科AraceaeのショウブAcorus calamus L.の根茎

性味

苦・辛、温

帰経

心・脾・胃

効能・効果

①除湿開胃
②化痰止咳
③開竅

特徴

ショウブは池や川などに生える多年草で、ユーラシア大陸から北米大陸の温帯から暖帯に広く分布しています。和名のショウブは、漢名の「菖蒲」からきています。古くはアヤメグサまたアヤメといって、日本最古の和歌集「万葉集」にも登場しました。

5~6月に見頃となるショウブの花はアヤメ科のハナショウブであり、生薬として使われるサトイモ科のショウブではありません。葉の形状が似ていることから「ショウブ」と名付けられたハナショウブですが、見た目が派手なことから、こちらの方が有名になっています。

当初はサトイモ科に分類されていましたが、植物体に精油を含むこと、他の多くのサトイモ科が形成する塊茎がないこと、DNAの分析からはサトイモ科との相違点もあり、新しい見解(APG分類体系)では独立科のショウブ科としています。

市場には類似生薬として、小型の近縁種であるセキショウを基原とした菖蒲(しょうぶ)があり、古来より両者は混同されていたようです。日本薬局方外生薬規格に「石菖根(せきしょうこん)」として記載されているのも、セキショウブを基原としています。セキショウは一般に山間部の渓流ぞいや水のかかる石の上などに生え、ショウブは池や小川のほとりの泥中に根茎を張ります。ショウブを漢字で書くと「菖蒲」となりますが、中国で正しくは「白菖」と書き、「菖蒲」はセキショウのことを指す漢名になっています。

ショウブは強い芳香を持ち、葉が剣状であるため、古くから魔除けとして利用されてきました。中国では古来よりショウブの形が刀に似ていること、邪気を祓うような爽やかな香りを持つことから、男子にとって縁起のよい植物とされ、家屋の外壁から張り出した軒に吊るしたり、枕の下に置いて寝たりしていました。日本では男子の健康と成長を願う端午の節句で用いられ、菖蒲湯(しょうぶゆ)、菖蒲酒(あやめざけ)や菖蒲刀(あやめがたな)など厄除けに利用されています。菖蒲湯では元来セキショウの方を用いるのが正しかったようですが、香りが強すぎたため、次第にセキショウよりも匂いの弱いショウブの葉が用いられるようになりました。

水菖蒲の効能はほぼ菖蒲と同じですが、菖蒲は水菖蒲より開竅に優れ、水菖蒲は化湿開胃・化痰止咳および癰種蒼疹湿疹などに対する効果が優れています。
水菖蒲には菖蒲根(しょうぶこん)」や白菖(はくしょう)といった別名もあります。

「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の上品に分類され、昌蒲の名で「味辛温。風寒湿痺、咳逆上気を主治し、心孔を開き、五臓を補い、九竅を通じ、耳目を明るくし、音聲を出す。久しく服すれば身を軽くし、忘れず迷い惑わず、年を延ばす。一名昌陽」と記載されています。「名医別録(めいいべつろく)」では「耳聾、癰瘡を主治し、腸胃を温め、小便を止め、四肢の湿痺で屈伸できないものを利し、小児の寒熱病で身積熱が解けないときは浴湯に使う。耳を聡くし,目を明らかにし,心智を益し、志を高くし、老いず」と記されています。

うっ帯した気分を晴らし、気を開く働きのある開竅薬(かいきょうやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に牛黄(ごおう)麝香(じゃこう)・安息香(あんそくこう)があります。

除湿開胃・化痰止咳・開竅などに働き、癲狂・驚悸・健忘・耳鳴・神志不清・湿滞痞脹・泄瀉痢疾・風湿疼痛・癰腫疥蒼などに使用します。

聡耳の効能を持つため、難聴・耳鳴りに内服または外用されます。

過服すると悪心・嘔吐をきたしやすいので注意が必要です。

※ 桃華堂では生薬単体の販売はしておりません。

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